【視覚編】五感をハック:実用例まとめ
現代の世の中にはいろんなアプローチで感覚をハックする技術を開発している人がいます。
五感をハックするシリーズでは紹介しきれなかった技術をピックしていきましょう。
今回は感覚別に面白いテクノロジーを紹介していきます。
視覚
前回「触覚編」で紹介した筑波大の落合陽一さんのチームによるデバイス。
写真の通り空中にドットの表示を行っています。
レーザーで空気分子をプラズマ化することで、空中に光で三次元の像を描く仕組みです。
発振時間のごく短いフェムト秒レーザーを用い制御することにより、指で遮っても皮膚にほぼダメージを与えない一方、プラズマによるわずかな衝撃で触った感覚を得られることが特徴。
また光学的にアタリ判定もでき、「触れて反応する空間ディスプレイ」を実現します。
アタリ判定とは簡単に言うと物体と物体が衝突したかどうかを判定する方法です。
レーザー光を空気中の一点に合焦させ、空気分子をプラズマ化することで光らせる技術そのものは目新しくはありません。
たとえば産総研や慶応大学ではすでに10年ほど前、空気のプラズマ化による光点を三次元的に並べて3D図形を表示する「空間立体描画」ディスプレー装置の試作品を公開しています。
今回の Fairy Lights in Femtoseconds 研究の意義は、フェムト秒レーザーを用いることにより解像度を高め、ホログラム式または三次元走査式の精緻な三次元像を描いたこと、ナノ秒レーザーなどを用いた方法よりも比較的安全性が高いことを(皮膚に見立てた革を実際に炙って)検証したことにあるといいます。
要するに「触ってもやけどしたりしない3Dかつ触覚の感じられる技術」ということです。
また触れた感覚を得られ、インタラクティブに変化させるアプリケーションの可能性を探ったことなど。
(クリスマスのイルミネーションなどに使うケーブル状や網状に連なったライトを「フェアリーライト」と呼んだりします。)
将来的に考えられるアプリケーションの例。現実の物体の上に浮いて表示する空中AR表示、触れる空中ユーザーインターフェース、触れる三次元映像など。
投影するスクリーンに依存せず「何もない空間に本物の立体像を表示でき、さらに一定の触感まで得られるとなれば、まさに夢のディスプレイ方式です。しかし今回の実験の段階では、上図のような大掛かりな光学機器を並べたうえで約1cm角の表示を実現しています。
実用化に向けた課題は光ドットの密度(解像度)を保ちつつ投影サイズを大きくすること。ここは現状の方式である限りレーザーの出力とレンズに依存するため、表示システム自体を何セットか並べる方式も提案されています。
また指で触れても従来のプラズマ発光空間ディスプレイよりも安全である点が今回の意義のひとつですが、低出力とはいえ直接レーザーが眼に入れば網膜が傷つくため、アプリケーション側でも安全策を取る必要があります。(指で触れても害がほぼないのは、長い時間炙り続けないとやけどのようなダメージはなく、それよりもはるかに前に制御して止められることから)。
空間に三次元映像が浮かぶインターフェースの実用は、もうしばらくは HoloLens のように眼を騙す(錯覚)系のヘッドマウントディスプレイやスマートグラスに分があるようですが、将来的な空間立体ディスプレイの実用化に夢を持たせてくれる研究ではないでしょうか。